news

新着情報

能の演目の種類について(ひとつのはな #21「融」チラシ掲載)

2025年04月05日

《能の演目の種類》

能楽の世界では演目のことを「曲目(きょくもく)」または「(きょく)」とも言います。
曲の種別は、現在もっとも主流である「五番立(ごばんだて)」という分類があり、初番目、二番目、三番目、四番目、五番目に分けられています。この五種の順番に、「神・男・女・狂・鬼(しんなんにょきょうき)」とも表し、能のシテ(主演者)の役柄が、主に、神様の曲は初番、男性の曲は二番、女性の曲は三番、物狂(ものぐるい)の曲は四番、鬼の曲は五番、というように類別します。また、同じく五種の順に「脇能物(わきのうもの)」「修羅物(しゅらもの)」「鬘物(かずらもの)」「雑能物(ざつのうもの)」「切能物(きりのうもの)」とも言い、各区分に入る曲の代表的な特徴を捉えた呼称です。特殊なのは雑能物で、物狂の曲が分類されるとともに、他の四種に入らない曲を四番目物に当てはめています。

◆ 初番目物|脇能物|神

【特徴】神様が主人公の物語で、天下泰平や国土安穏を祈る、祝言(しゅうげん)の能です。
(例)高砂、西王母、鶴亀、竹生島、賀茂/加茂、江野島

◆二番目物|修羅物|男性

【特徴】平家や源氏の武士やその亡霊が主人公の物語で、戦(いくさ)の様子や苦しみを描く能です。
(例)清経、敦盛、経正/経政、箙、八島/屋島

◆三番目物|鬘物|女性

【特徴】女性が主人公の物語で、優美な謡や舞を特徴とする能です。
(例)羽衣、杜若、井筒、東北、野宮、熊野/湯谷、松風、雪

◆四番目物|雑能物|狂

【特徴】離別した男女や親子が相手を探し彷徨う物狂の能のほか、中国をテーマとした物語、現実の男性を主人公とする劇的な物語もあります。
(例)隅田川/角田川、邯鄲、安宅、三井寺(鐘之段/鐘ノ段)

◆五番目物|切能物|鬼

【特徴】鬼や天狗、怨霊や貴族の霊などが主人公の物語が多く、公演で複数の能がある場合には最後に上演される曲です。
(例)安達原/黒塚、鞍馬天狗、船辨慶/船弁慶、融、海人/海士(玉之段)、殺生石、石橋

《演目の流儀によるちがい》

◆能の曲は、シテ方の流儀ごとに定められています。シテ方五流のうち、全流儀にある曲から、一つの流儀にしかない曲もあります。
◆同じ曲でも名称や表記が流儀によってちがうものがあります。
◆同じ曲でも五種のいずれに分類するかは流儀により異なります。
◆能の曲には季節があり、一曲の季節は、流儀により異なります。

《能楽の役割》

能楽には次の7つの役割があり、能楽師は自身の専門の役のみを勤めます。

シテ方(かた)……シテ/主演役、ツレ/助演役、子方/子役などの装束を付けた劇中の登場人物のほかに、謡を担当する地謡(じうたい)と舞台進行を監督する後見(こうけん)も勤めます。
ワキ方(かた)……劇中の登場人物で、必ず生きている男性役のワキ/シテの相手役とワキツレ/ワキの助演役を勤めます。
笛方(ふえかた)……能楽の囃子/音楽のうち、能管(のうかん)という横笛を勤めます。
小鼓方(こつづみかた)……能楽の囃子/音楽のうち、右肩に乗せて打つ小鼓を勤めます。
大鼓方(おおつづみかた)……能楽の囃子/音楽のうち、左腰に構えて打つ大鼓を勤めます。
太鼓方(たいこかた) ……能楽の囃子/音楽のうち、台を用いて舞台に置き、両手に持った撥(ばち)で打つ太鼓を勤めます。
狂言方(きょうげんかた)……能の劇中に登場する間狂言(あいきょうげん)と、狂言方で演じる本狂言(ほんきょうげん)の両方を勤めます。

《各役の流儀》

各役には次の流儀があり、公演で「〇〇流の能」という場合は、シテ方の流儀を指します。現代では、シテ方と他の役の組み合わせに決まりは無く、主催者かシテが決めることがほとんどです。

◆シテ方……観世流(かんぜりゅう)、金春流(こんぱるりゅう)、宝生流(ほうしょうりゅう)、金剛流(こんごうりゅう)、喜多流(きたりゅう)
◆ワキ方……宝生流(ほうしょうりゅう)、福王流(ふくおうりゅう)、高安流(たかやすりゅう)
◆笛方……一噌流(いっそうりゅう)、森田流(もりたりゅう)、藤田流(ふじたりゅう)
◆小鼓方……幸流(こうりゅう)、幸清流(こうせいりゅう)、大倉流(おおくらりゅう)、観世流(かんぜりゅう)
◆大鼓方……葛野流(かどのりゅう)、高安流(たかやすりゅう)、大倉流(おおくらりゅう)、石井流(いしいりゅう)、観世流(かんぜりゅう)
◆太鼓方……金春流(こんぱるりゅう)、観世流(かんぜりゅう)
◆狂言方……大蔵流(おおくらりゅう)、和泉流(いずみりゅう)

《能の主な構成要素》

◆謡(うたい)……能の声楽で、詞章と節/旋律からなる歌謡。能の登場人物の発言である謡と、劇の場面や情景を描写して語る地謡の謡があります。
◆囃子(はやし)……笛、小鼓、大鼓、太鼓の四つの和楽器で構成された能の音楽。
◆舞(まい)……シテやツレの型に基づいた動きで、謡や囃子に合せて舞います。

《能楽の上演形態のバラエティ》

能と狂言には、次のような多様な上演の方法があります。一般的に「能」と言う時は、能面、能装束を付けて、囃子と地謡の入る「本能」を指します。

◆謡と舞(またはどちらか)、及び囃子の入る上演……本能(ほんのう)、半能(はんのう)、舞囃子(まいばやし)、居囃子(いばやし)、番囃子(ばんばやし)、一調(いっちょう)、独鼓(どっこ)/独調(どくちょう)、一調一管(いっちょういっかん)
◆謡だけの上演……素謡(すうたい)、連吟(れんぎん)、独吟(どくぎん)など。
◆囃子だけの上演……素囃子(すばやし)、一管(いっかん)など。
◆狂言の上演……本狂言(ほんきょうげん)、間狂言(あいきょうげん)、小舞(こまい)、小歌(こうた)、語り(かたり)など

《PDFでのご案内》

PDFでご覧になりたい方は
こちらをご覧ください。

※本ページは、能の公演へご来場されるお客様に向けて、手引きとなるよう、弊社の視点でご案内しているものです。能楽を学術的な視点からひも解く目的ではありませんので、ご了承いただきたきますようお願いいたします。
※本文章の全部または一部の、複製、転載、転記はお断り申し上げます。